新型コロナを含めて、今後も出現するであろう新型ウイルスに対する免疫力Upのための漢方補剤の活用~未病を治す―3~帰脾湯・桂姜棗草黄辛附湯

『風邪は万病のもと』と昔からと言われています。しかし、以前より日本では風邪を甘く見る風潮がありました。風邪を引かないための普段からの養生が大切ですが、それを甘く見る風潮が社会に限らず個人にもあります。また、それは日本社会に限らず欧米社会でも同じことであり、新型コロナウイルスが世界中に蔓延した一つの要因になっているとも思います。

昨今では、「新型ウイルスとの共存を図る」と言われていますが、今までの人類に於ける感染症(細菌・ウイルス等)との戦いの歴史を振り返れば至極当然の事です。新たなウイルスとの共存を暫く繰り返し集団免疫を獲得し落ち着き、その後また次なる敵が現れるのです。そして、漢方自体が感染症との繰り返される戦いの歴史の中で生まれたものであり、治療医学として意義が其処に存在するのだと考えます。

新型コロナウイルスに対抗するために自らの免疫力を上げるように盛ん言われています。免疫力を上げるとは自ら備えている体の防衛機能(免疫機能)を高め侵入したウイルスを駆逐することです。しかし、侵入したウイルスを駆逐するのは薬でなく自らが備えている免疫機能です。免疫機能を高めて風邪の罹らない体、罹っても重症化しない体を自らの力で築き上げることが大切です。

漢方には、『未病を治す』という言葉があります。まさに、これこそ風邪に罹らない体を自らの力で築き上げ上げることに他ならないのです。また『未病先守(ミビョウセンボウ)』という言葉もあります。健康な体を作っておいて、様々な病気から身を守るということです。そのために、普段からの養生(食事・睡眠・運動)が大切となります。そして、それに加えて漢方薬により健康な体を作ることも大切になると思います。この『未病』を防ぐ、防衛医学としての道が漢方にはあると思います。それには、個人個人に見合った補剤の活用がとても重要になります。

漢方では、体の免疫機能を司るものを衛気(エッキ)と考えます。この衛気は皮膚の表面を流れ体表を守り、外からの邪気(ジャキ~風邪のウイルスなど)の侵入を防いでいます。扶正裾邪(フセイキョジャ)という言葉が漢方にあります。これは体の抵抗力や免疫力を充実させ、外邪(ガイジャ~ウイルス・細菌などの病原菌)からの攻撃に負けない健康体を作るということです。

この場合、中心となる薬が黄耆(オウギ)です。その黄耆が入った処方に、「玉屏風散(ギョクヘイフウサン)」や「補中益気湯(ホチュウエッキトウ)」、「十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)」などの処方があります。いずれの薬も体の防衛機能(免疫力)を高める薬です。また、黄耆自体にもインターフェロン誘起作用があり、抗ウイルス作用が認められています。

「十全大補湯」、「補中益気湯」は、すでに抗癌剤・免疫抑制剤投与後の体力回復目的で幅広く使われています。「十全大補湯」の体の総てを補うという意味です。“先天の気(腎の力)”を補う「四物湯(シモツトウ)」に、“後天の気(胃の力)”を補う「四君子湯(シクンシトウ)」に黄耆と陳皮(チンピ~胃薬)を加味した処方です。

非常に良い処方なのですが分量が多く、また胃に負担をかけやすい地黄(ジオウ)が入っているので、胃弱の人は却って胃の負担になることがあります。そのような場合は「補中益気湯」が良いと思います。『中』とは漢方で胃腸のことであり、「補中益気湯」の意味は、胃腸を補い元気をだし体力をupして免疫力を高めるということです。

「補中益気湯」は、黄耆、柴胡(サイコ~肺·肝に働き抗炎症作用がある)、当帰(トウキ~婦人系で良く使い体を暖める)を中心に多数の胃薬が配合されて、バランスの取れた良い処方です。

「十全大補湯」をベースにした薬に「人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ“)という処方があります。十全大補湯の加減方で“清気(肺の力)”を高める五味子(ゴミシ)や遠志(オンジ)を用います。遠志は、遠退いた志し記憶を呼び戻すとも言われています┅。

「玉屏風散」は、黄耆、白朮(ビャクジュツ~健胃)、茯苓(ブクリョウ~健胃)と3味で成り立ちます。処方数も少なく胃薬が中心なので胃の負担もありません。もともと体力もなく虚弱体質の風邪の予防としては、とても良いと思います。

また、貧血気味で胃腸の弱い人には、胃腸の薬や遠志が配合された「帰脾湯(キヒトウ)」。胃弱で痩せ気味の人には、膠飴(コウイ~うるち米を蒸した後で麦芽汁で発酵糖化した水飴を固めて作る) が入った「帰耆健中湯(キギケンチュトウ)」などを服用して、食欲を増加させ元気をだし体力upさせ、風邪予防につなげます。膠飴は胃を暖め消化吸収を高めます。なによりも、飴が入って甘くて飲みやすい。ただし、飴はオマケではありません(・・;)よ。大事な薬です。

体力もなく元気のない高齢者には、「桂枝湯(ケイシトウ)」と「麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)」がほぼ合わさった、「桂姜棗草黄辛附湯(ケイキョウソウソウオウシンブトウ)」が、体力upと風邪予防と兼ねて良いと思います。また胃薬の多く使われている「参蘇飲(ジンソイン)」も良いと思います。

追記) 最近、NHKの新型コロナに関連する番組で「さだまさし」が、『僕は咳が出る時に腰を暖めると不思議に咳が止まる』と言っていました。これは漢方では上水(肺)・下水(腎)の関係のことですネ。腰の当たりはちょうど腎の裏の位置です。下水(腎)が良くなると上水(肺)も良くなります。患者さんの中には、「当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)」、「当帰四物逆湯(トウキシギャクトウ)」で不妊治療中に喘息が治ってしまう患者さんがいます。また風邪が引きにくくなる患者さんもいます。