漢方で*赤ちゃん迎える院長blog

妊娠しやすいお腹・妊娠しにくいお腹

昔から、日本漢方は腹診をとても大切にしてきました。何故なら、今のように検査医学が進んでいない世界では、患者さん自ら発する病的な状態を、医師が自らの五感で受け取めるしか無かったのです。

体の中の臓器がが弱まると表面の皮膚や筋肉が反応して、体を守ろうとして緊張し堅くなります。要するに、体の防衛反応です。それを捉えていくのが腹診です。

今でも漢方の診察においては、体の健康状態及び病的状態の指標となる腹診を大切しています。そして、この腹診の変化に従い患者さんに適した薬を処方するのです。

それは漢方の不妊治療においても同じであり、腹診が診察の大切な要素となります。妊娠する場所は子宮・卵巣ですが妊娠は体全体で行うものです。ですから、子宮・卵巣の状態だけにとらわれず、体全体の健康状態を示すこの腹診が重要となるのです。

不妊治療における腹診とは、まずは、妊娠しやすいお腹か妊娠しにくいお腹かを見極めて、その人に適した漢方薬を処方することです。そして、患者さんの『腹証』の変化に伴い随時に処方を変えていきます。これを、漢方では『随証療法』といいます。

産婦人科で良く使う『当帰芍薬散』は、本来は最後の仕上げの薬なのです。漢方には『証』という言葉があります。『当帰芍薬散』は、とても良い薬ですが、腹診などにより導き出された『証』に合わせて服用しないと、『当帰芍薬散』も充分な効果が期待できず、折角の良薬も “宝の持ち腐れ” となってしまいます。

例えば、妊娠しやすい人のお腹は柔らかく”突き立てお餅”のようにフワッとしています。一方、妊娠しにくい人のお腹は、冷えがあって氷のように冷たく堅いか、瘀血があって腹部の血流が滞り石のように堅くなっています。

腎虚があってお腹の正中部が非常に軟らかな人もいます。こうしたお腹の変化に合わせ適時に処方を決め(随証療法)、最後は妊娠しやすいお腹の状態にすることが、漢方不妊治療の本質です。一時的な変化に惑わされずに本質的な体(腹部)の変化を捉え、患者さんに適した漢方薬を処方することが最も重要なのです。

晩婚化や高齢化の影響で妊娠の年齢も上がり、最近では当院で妊娠する人の30%は40歳以上です。また、高度生殖医療の拡がりを受けて当院でも高度生殖医療との併用を希望する方の割合も増えてきました。

当院では30年以上前から妊娠の70%は35歳以上でした。そして、妊娠分布で一番多いのは35歳~40歳です。それは統計を取り始めた30年前から今もさほど変わりません。それでも、30年前は90%以上が自然妊娠で体外受精等は数%でした。それが今ではほぼ半々の割合です。

長い人類の歴史の中で女性の体の本質が、たかだか30年間で変わるはずはありません。変ったのは高度生殖医療の施設が増えたことです。確かに、当院も年齢層が上がり高度生殖医療を行う患者さんが増えました。しかし高度生殖医療を行う場合も、まず体の土台作りをおこない、妊娠しやすい母体にすることを、患者さんには勧めています。

赤ちゃんをはぐくみ育てることのできる身体を作ること、それが大切なのです。その助けになれるように日々診療にあたっています。次回は、婦人科の臨床的3大症状、頭痛・生理痛・便秘です。3つとも冷えが多いに関連しています。