漢方で*赤ちゃん迎える院長blog

未病と不妊 ・妊活upへの道~1

2000年以上前の古い中国の漢方の本に『黄帝内経(こうていだいけい)』という本があります。その本の中に「聖人は既病(きびょう)を治すのではなく、未病(みびょう)を治す」という言葉があります。「正しい医者の姿とは、本来は病気になる前の状態を治すことである」という意味です。今回はこの『未病』と不妊の関連性について書いてみたいと思います。

さて『未病』ですが、この『未病』の状態では特段の症状がある訳ではありません。「最近やけに疲れやすい」、「なんとなく食欲が出ない」、「いつもいつも眠い」、女性においては「手足が冷えて困る」、「便秘や生理不順が近頃ますますひどい」、「生理前症候群・生理痛がきつい」などのような訴えしかなく、病院に行き検査をしても特に悪いところもなく、多くの場合は問題視されれません。

しかし、この時、体の中では後で述べるいずれかの『気』の乱れが生じていて、そのまま放置しておくと後に重大な疾患に向かていく可能性があります。一見すると健康そうにみえても、本人が気付ないうちに体が『未病』の状態から『既病』の状態に変化してるのです。要するに、体内に潜んでいる状態の病気=未病が、体の表面に出て症状としてあらわれる=既病の状態に進んでいるのです。

この時点で患者さんの様々な訴えを聞き、乱れた『気』を正常な状態に戻すことが大切になります。現代医学でも、病気や癌に対して定期的に検診をして早期発見・早期治療をするようにいわれます。これは漢方的にいえば『未病』を発見し治療をするに他ならないのです。そして、それと同時に漢方では病気を起こさないためにも日々の生活の養生も大切にしています。

日々の養生とは: 食事・睡眠・運動のバランスを上手に取ること

漢方治療はこの『未病』の状態を治すことを得意としています。それと一緒に日々の養生も心掛けるように患者さんに話しています。『未病』の状態を治すこと、日々の養生を行うことが不妊治療にもつながっていくのです。

漢方には、『先天の気』、『後天の気』、『清気』、『肝気』という言葉があります。『先天の気』は腎の力です。漢方では腎は内腎、副腎、外腎の3つからなります。内腎は今の腎臓のことです。副腎は副腎ですが、外腎は泌尿器・生殖器のことをいいます。女性なら子宮・卵巣・膀胱。男性なら睾丸(精巣)・膀胱のことです。また腎には「生まれ持った生命力、生殖能力」が宿るとされています。つまり人間はこの腎の働きがあるからこそ、自分達の子孫を残すことができるのです。(「アンチエイジングと卵子の老化」blog参照)

『後天の気』とは胃腸の働きのことです。胃腸の消化吸収の働きにより食事からの必要な栄養を全身に巡らします。『清気』は肺の呼吸により得られる酸素を全身にくまなく循環させる力です。人間、単純に云えば、食べて呼吸をしなければ生きていけません。そして子孫を残すこともできません。この『先天の気』、『後天の気』、『清気』、そこにストレスなどが関与する『肝気』が合わさり全身を巡る『元気の気』となり健康が保たれるのです。『未病』とは、このいずれかの「気」の乱れにより健康な状態を保てないことを意味しています。また、すべての『気』の流れの基本となるのは五臓六腑であり、これらがお互いに密接に関与して『気』が作らていきます。(「咽中炙臠」blog参照)

五臓とは ∶ 肝臓・腎臓・脾臓・心臓・肺

六腑とは ∶ 胃・小腸・大腸・膀胱・胆嚢・三焦

妊娠においても、「先天の気=腎」だけ捉われずに、「後天の気」の胃腸を良くして体調を整えたり、「清気」を強くして風邪の引きにくい体質に改善して妊娠する人がいます。またストレスによりウッ滞した「肝気」の流れを良くして妊娠する人もいます。これらは、全ての「気」の流れの基本となる五臓六腑がみなお互いに妊娠に関連し合っている証拠なのです。

次回は、より具体的に不妊症の患者さんの症状について書きたいと思います。