漢方で*赤ちゃん迎える院長blog

赤ちゃんを迎えやすい母体作りのために

漢方不妊治療の立場から言えば、勿論、自然妊娠が一番だと思います。しかし、高度生殖医療技術(薬剤・受精技術・培養技術・凍結技術等々)の進歩もあり高度生殖医療での妊娠も選択肢の一つと考えています。ただ、昨今の高度生殖医療の妊娠率などの伸び悩みの状態をみると、高度生殖医療とは違う型のアプローチを考える必要があると思います。妊娠するのは生身の人間の体です。自然妊娠するくらいの~赤ちゃんを迎えやすい体の状態で高度生殖医療に臨まないと、妊娠して流産せず出産まで行き着くのは難しいと、日々の診察を通して強く感じています。

去年は、年初めからのコロナ騒ぎ、長梅雨、高温多湿の夏の猛暑、天候不順気味の秋で、朝晩と昼間の寒暖の差も激しく、また冬の寒さの訪れも例年以上に早くきましたが、その後は隔週毎に寒暖差がありました。それらの影響で精神的にも肉体的にも疲れ、結果として、去年は生理が一時的に止まったり生理不順気味な人が、特に多い年だと感じました。(玄和堂診療所Hp、「今年の秋は生理不順が多い」blog参照)

生理を担っているのは脳ですから、体調が整えば生理はまた自然に整い来るようになるものです。体調が整わない内にホルモン剤で無理矢理に生理を起こすと、脳はますます混乱してしまい、結果として体調をさらに崩すことになりかねません。

さて、この流れは今の高度生殖医療にもいえます。いつも患者さんには『妊娠する場所は子宮・卵巣ですが、妊娠・出産は体全体で行うもの。妊娠は最後は出産しなくては意味がない。』と診察中に話しています。今の高度生殖医療は、採血した血液中のホルモン値の結果で、採卵の時期や移植の時期を決めることが多くなりました。特にこの数年間は、着床の窓 (ERA、EMMA、ALICEなど) の検査の普及により、不妊治療自体を子宮・卵巣のみに焦点を当てたミクロ的視点から診療する傾向がますます顕著になってきました。

しかし、血液検査で得られるホルモン値の結果も、普段の生活態度全般の流れの一つとして現れるものでもあります。日々の生活(食事のバランス、睡眠時間の質や長さ、運動の習慣 )の結果の一つとして、ホルモン数値も捉えるべきです。ですから、その数値だけを見て一喜一憂するのではなく、より質の良い卵子を得るためにも、より良い子宮内膜の状態を保つためにも、普段からの体作りや母体作り、日々の養生(食事・睡眠・運動)が大切となります。

また、受精卵を戻す場合でも、ホルモン剤で排卵を起こさず調整して戻す施設も増えてきました。生理は排卵の結果として自然に来るものです。その自然の状態を乱すと生理はより乱れるものです。最近では、ホルモン剤を止めたら生理不順が不妊治療を始める前よりひどくなった、子宮内膜が余計に薄くなった、回を重ねるごとに採卵の数が減ってきた、という患者さんが診察中に増えてきました。そういう意味で不妊治療を体全体から診るマクロ的視点での診療はますます少なくなりました。

体の中で、液体情報を伝える物質(ホルモン)を分泌する場所を内分泌系といいます。内分泌系同士は互いに影響しあって、体の働きのバランスを保つように働いています。この内分泌系の活動を調整する大本は脳の一部である下垂体です。脳下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(FSH:卵胞刺激ホルモン、LH:黄体化ホルモン)は卵巣に作用し排卵・生理を促します。ですから、さまざまな精神的肉体的ストレスが生理不順の原因となるのは当然のことと言えます。人間の体の臓器はそれぞれが関連し合いながら一人の人間を形成します。体全体で妊娠・出産する不妊治療では、特にそれを痛感します。(「生理は脳が起こしている」blog参照))

漢方の診察は、まずは体全体を診察することから初めます。その中では特に腹診(腹症)が大切となります。薬の服用を開始して1~2ヶ月で生理痛やPMSが改善して腹症がよくなる人もいますが、数ヵ月服用しても症状や腹症にほとんど変化の見られない人もいます。妊娠に関しても、服用を初めて3ヶ月から半年以内で妊娠する人もいますが、1年以上1年半以上かかる人もいます。昔から漢方には『3年年3ヶ月3日飲め』という言葉があります。体質改善には時間が掛かるという意味です。(「3年3ヶ月3日」blogおよびHp「治療実績|妊娠例」参照)

お腹(腹症)は常に変化しやすく治療の指針となります。冷えて凍って硬いお腹や、瘀血により石の様に硬いお腹は妊娠しにくいお腹です。冷え瘀血を改善して、突き立てのお餅のようにフワッとして妊娠しやすいお腹にすることが大切です。それゆえに様々な診察(問診・望診・脈診・舌診など)の中で腹診が特に重要なものになります。妊娠はお腹でするものですから、その変化(腹証)に注意を払うことが、日々の診療の中では、とても大事なことと考えています。(「妊娠しやすいお腹・妊娠しにくいお腹」のblog参照)

そして、高度生殖医療を行う時でも、冷えや瘀血を改善し妊娠しやすい柔いお腹で臨まないと、いくらグレードの良い受精卵を戻して着床して妊娠したとしても、流産してしまう人が多いように思われます。自然妊娠にしても高度生殖医療にしても、妊娠・出産は、最後は我が手に赤ちゃん👶を抱かなくては何も意味がありません。そのため、日々の養生(食事・睡眠・運動)での体作り母体作り、漢方に於いては、妊娠しやすい軟らかなお腹作りが大切だと考えます。